心の殺陣記 精霊は化粧をするのか 1 忍者ブログ
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mixiで書いたものをこちらにも。
以前まで、ここの書庫にあった作品の番外編っぽいもの。
設定を大幅変更していたり、何これっていう人もいらっしゃるかと思うので、
「なんだ、こいつこんなの書いてるぞ」程度に思って下さいな。

 

 

 


それは、彼女の何気ない一言から始まった。

「精霊って、化粧してるの?」
「は?」

そんなワケのわからない質問をしたのは、現役女子高生にして人間界の超売れっ子アイドル、ネリィ=アルヴェだった。
抜群のスタイルに演技力、元気で明るい笑顔。
人を惹きつける要素を兼ね揃えた彼女だが、俺の前では普通に図々しい。

「今『こいつまた下らないこと言いだした』って考えてるでしょ」
「それに加えて『早く帰れ』と思っていた」

ネリィはクッキーをもりもりと食べながら、紅茶をすすっている。
そのクッキーも紅茶も、実際はうちの家のものだ。
「春休みでヒマなの。お仕事も丁度休みでねーっ」とにこにこしながら家に上がり込み、椅子に座るや否や菓子とお茶を要求したのであった。
こんなのがモテる理由がよくわからない。

「ふと疑問に思ったのよ。あたし達人間の女の子って、お肌トラブルだとか老廃物ってあるじゃない?」
「そもそもお前は純粋な人間じゃないわけだが」
「いいのよ、人間だから。あたしは人間だから、お肌のケアは必要だし化粧をするわ。
でも、老いが無い精霊はお肌の老化なんて無いんじゃない?
だったらさ、いつまでも若くてキレイなお肌保ってるんじゃないかな。
化粧もしなくて良いんじゃないかなーって」

ネリィとは長い付き合いだ。
彼女は不運にも“精霊から生まれた人間”だった。
実の親に殺されかけていたところを、彼女の兄に頼まれて、俺が面倒を見続けている。
彼女が幼い頃からよく知っているが、16歳になった今でも、素っ頓狂な質問を投げかけてくるのは変わらない。

「で、そういうこと、しゅうちゃん知らない?」
「俺が知ってどうするんだ…」
「仮にも自然の主なんだから、何か知ってるかと思って」
「……化粧品がどうだこうだという話を聞いたことは一度もないが」
「役立たずね。探究心を持つことは大切なのに」
「それをお前に言われたくない。大体、精霊が化粧するだのなんだのの話を聞いて、お前はどうするんだ」
「別に。もしも何か秘策があるなら、教わろうと思っただけよ?」

言いながら、ぼりぼりとネリィはクッキーを頬張り続ける。
改めて眺めてみると、ネリィは肌がキレイだ。
正直化粧をする必要は無いだろう…と、そう思うのは俺が男だからだろうか。
いくら周りが「肌がキレイ」なんて言っても、信じられずに美容への関心をどんどん深めていく。それが女性というものなのだろうか。

……いかんいかん、何だかペースに乗せられて来ている。これではネリィの思うつぼじゃないか。

しかし、よく話をする精霊達を思い浮かべてみると、吹き出物だなんだは見たことが無いような。
俺自身も一応は人間の血を持っているが、精霊の血がほとんどなわけであって。
その影響だろうか、肌を気に掛けたことはない。
もっとも、男が肌を気に掛けるというのは…どうなのだろう?
その辺りは、俺よりもセイの方が詳しいに違いない。

ふ、と視線をネリィに向けると、彼女はにやにやとこっちを眺めていた。

「…ほら、段々気になって来た」
「…いや、気になってはない」
「よし、じゃあ今から精霊界行こう。ね?」

紅茶のカップを机に置き、最後のクッキーを口に放り込んで、ネリィは俺の腕をつかんだ。

「ほらほら、早く!出発進行っ!!」

こいつは俺を交通機関か何かと勘違いしている。
そう思いながら、俺は渋渋精霊界へとトんだ。





精霊界は、広い。
その多くは森林と山岳地帯であり、中央に精霊界の“心臓”がある。
俺はその中央で、自然の主としての業務を行っている。
最近は人間界の調査をするため、頻繁に精霊界と人間界を行き来しているが。

今居る場所も、精霊界の“心臓”と呼ばれる場所だ。
ここには多数の施設や居住区があり、俺の知っている精霊も多い。

「で、連れて来てくれたは良いけど…誰に聞くの?」
「そうだなあ、まずは」

結局ネリィの思惑にはまってしまった格好だ。
とは言え、精霊が化粧するかどうかは、言われてみれば確かに気になることではある。
ならば、ターゲットは年頃の女性だろう。
そう思いながら辿り着いたのは

「……とくしゅぶたい?」

精霊界の厄介事を処理する人々の集まり、精霊界特殊部隊だった。
そこに所属する人々も、厄介な人ばかりという難ありの場所。

「今回の調査には、不釣り合いな場所を選んできたわね」

とネリィは言うが、俺は気にせず扉を開けた。
中には小さなテーブルと、向かい合わせのソファー。
その少し奥に事務机があり、書類が山積みになっていた。

「あら、隊長。お帰りだったんですか」

依頼する者が誰も居ないことをいいことに、ソファーに座って紅茶をすする女性が居た。
セミロングに切り揃えた桃色の髪は風になびき、澄んだ茶色い瞳はこちらを見据えている。

この女性が、今回ここに来た理由であった。

特殊部隊副隊長、ラグルム。
彼女はこの特殊部隊で唯一の女性である。
いつも優しげな雰囲気を漂わせ、訪れた依頼人にも分け隔てなく微笑み、なおかつ仕事は完璧にこなす。
そんな彼女に魅せられてしまったファンは多く、何の用事も無いのにここに来る者も居るほどである。
が、特殊部隊の隊員が彼女に惚れることはない。
先程も言った通り、ここには厄介な隊員しか居ないわけであって、彼女も例外ではないのである。

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