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「あれ?」
家に帰ると、誰も居なかった。
居間にも台所にも二階にも、同居人は居ない。
カレンダーを見てみるが、用事があると言っていた覚えもない。
俺はよく物事を忘れるので怒られるけれども、今日は確かに何も言っていなかった。
一瞬、嫌な予感が胸をよぎる。
けれども、テーブルの上の紅茶のカップやポットが、
物騒なことは無かったことを示してくれている。
「……どこ行ったんだろ、しゅう」
カップの中は空っぽで、クッキーも食べ尽くされていた。
しゅうは誰かをもてなしていたのだ。
誰かはわからないが、少なくとも危ないことではないだろう。
なんとなく、そんな気がする。
まあ、適当に待っていたら帰って来ると思う。きっと。
ただ
「クッキー、俺の分は無いのか…」
それだけが不服だ。
夕方、俺の腹がぐうぐうと音を鳴らしだした頃に、しゅうは帰って来た。
「ただいま」
「たっだいまー」
うちの同居人は、超年下の女の子を連れて帰りました。
「おかえり。なんだ、ネリィも一緒だったのか」
「というよりは、ネリィに付き合ってた」
つまり、うちに来て菓子と紅茶を飲み喰いしたのは、ネリィか。
因みに冷蔵庫の中も探してみたけど、俺のおやつは無くなっていた。
おやつを取り上げられたら、腹は当然鳴るわけで。
俺はいささか不機嫌ではあったが、ここは大人になってグッとこらえよう。
「どこ行ってたんだ?」
「お前こそどこ行ってた。朝から出かけてるなと思ったら。
お前も居たら、ネリィの相手が少しは楽に……」
なぜそこで止まる。
「……まあ、すぐに晩飯の用意するから」
なぜ話を変えるんだ、しゅう。
しゅうはエプロンを引っつかむと、スタスタと台所へ行ってしまった。
取り残された俺は、同じく取り残されたネリィにこそこそと耳打ちをしてみた。
「…ネリィ、どこ行ってたんだ?」
俺が尋ねると、ネリィは微笑んで
「ないしょ」
と言った。
なんだか二人に何かを内緒にされているようで、悔しい。
そう言う俺も、今朝から家を出ていた理由を秘密にしているから、おあいこか。
ちょっと残念に思いながらネリィに笑いかけると、
台所からしゅうがこちらを睨んでいた。
「ネリィ、何か余計なことは言ってないだろうな」
「今日あったことは内緒って、セイ君に言ってたんだよ。
しゅうちゃんが褒めてくれたことは内緒にしておくね」
「バ、ッ…ネリィ!!」
「へえ、しゅうがネリィを。珍しいこともあるもんだな」
しゅうが身近な人を褒めるだなんて、滅多にない。
台所に目をやると、しゅうが頬を赤くして慌てていた。珍しい。
「ま、もうバレちゃったわけだし。で、何について褒められたんだ?」
「あたしがあたしにしかできないことを、調べたこと」
サッパリ意味わからん。
「どういうことだ?わかり易いように説明してくれ」
「ほんの些細なことだったんだけどね。精霊もお化粧とかするのかなーって思ってたの。
でも、それをテムレクトさんにバカにされちゃった」
「テムレクトは頭意外と固いからな」
「ほんとそうだよね。でも、しゅうちゃんは『人間のお前だからできたんだ』って、褒めてくれた。テムレクトさんは『甘い』って怒ってたけどね」
えへへ、とネリィが笑う。
その顔は本当に嬉しそうだった。
…そうか。
しゅうは、ネリィを羨んだのだろう。
彼はどんな観点にも恵まれているようで、その実どの観点からも見放されている。
ネリィは精霊から生まれたとはいえ、半分は人間。
力を持っているが、育った環境的には人間と等しいと考えても良い。
例え差別をされていても、ネリィは“人間”で居られる。
“人間”として物事を捉え、純粋にそこから考えることができた。
けれども、しゅうはそれができない。
それをしゅうは羨み、精霊から生まれた人間…ネリィを褒めたのだ。
「で、調べた結果はどうだった?」
「うん、面白かったよ。精霊界の歴史も教えてもらっちゃった……あと、ね」
「うん?」
ネリィがちらりとしゅうを見た。
俺もつられてしゅうを見る。
視線に気付いたらしく、彼はまな板から顔をあげた。
「ね、しゅうちゃん」
言いながら、にやにやと笑っている。
こういう時は大抵、ネリィは良からぬことを考えているのだ。
と、しゅうもにやりと笑った。…何だ?
「ちょっと、面白いことがあってな」
「テム、ネリィに対してそうは言うけどな」
熱い紅茶を冷ましながら、俺は言う。
テムレクトは滅茶苦茶熱いはずの液体をぐいぐいと飲みほしていた。
こいつにとっては酒も紅茶も一緒だな。
「俺、さっき見たぞ。お前んちの台所」
「まあ、そうじゃろう。お茶を淹れさせたのはわしじゃ」
「にあった、美白化粧品」
「ぶぼあーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
樹の主が思いっきり紅茶をふき出した。きたねえ。
苦しそうに咳をすると、テムレクトは勢い良く立ち上がり、
「おんし!!!何を勝手に人の台所をみておるんじゃ!!!」
「いや、お茶を淹れさせたのはお前だろ!」
大鎌を顕現させると、それを構えた。
この大鎌、武器作りの達人であるテムレクトの自信作であり、精霊界一危険な武器でもある。
切った対象を時空の彼方に飛ばしてしまうというのだから恐ろしい。
「え、何、つまり…テムレクトさん」
「知らぬ!わしは知らぬぞ!」
「嘘だって言うなら台所のものを持って来るが」
「その前におんしの首を飛ばしてくれるわ!!!」
俺は仮にもテムレクトの上司なんだが。
「…テムレクトさんも、お肌のお手入れしてるのね?」
「ち、違う!それは…それはっ…」
こうもうろたえるテムレクトだなんて、滅多に見られない。
小さな子どもを目の前にしたら、こういう風にうろたえるらしいが。
「それはっ、そうじゃ…エフォールが勝手に置いてって…」
「嘘吐くならもっとマシな嘘吐け。うちの師匠は男だし、あんなもの俺は見た覚えもない。
正直に言えよ、自分で作ったりして、手入れしてるんだろ?」
「う、ううう」
テムレクトは既に涙目になっていた。
大鎌を持つ手は震えていて、とても俺の首を刎ねられそうにはない。
ちょっと悪いことしたかなと思っていると、ネリィがつつつとテムレクトに近寄って行った。
「何も恥ずかしいことじゃないよ、テムレクトさん。
テムレクトさんだって年なんだから、お肌を気にするのは当然だよ」
あ、ばか。
「うがああああああ!!!!で、で、で、出てけっ!!!おんしら皆、出け行けーーーーっっっっ!!!!!!」
「きゃーっ!」
「あーあ」
トドメを刺されたテムレクトが鎌を振り回し始めたので、
俺達はさっさとテムレクトの根城から逃げ出したのだった。
「……それはまあ、ご愁傷様だな」
「あたし、悪気があったわけじゃないんだけど」
テムレクトは精霊界の女性の中でも年長なので、兎に角年齢を気遣っているようである。
樹の主というので目立つのに、年長ともなると更に目立ってしまうのが嫌なのだと聞いたことがある。
それを16歳の少女に突かれたのだから、たまったものではなかっただろう。
ネリィは満足そうに、ニコニコと笑っている。
「今回の研究結果。精霊界では唯一、テムレクトさんがお肌の手入れをしているのよ」
「なるほど。貴重な話を聞いた」
テムレクトが涙目で鎌を振り回すという話が。
「しゅうちゃんにも褒められちゃったし、こうして実績も得られたし…。
また何か思いついたら、研究してみようっと!」
「そうか、頑張れよ」
つまりそれは、しゅうはまたネリィに引っ張り回されるということだ。
しゅうの方を見ると、しゅうは疲れたような顔をしていた。
次の研究について胸を膨らませるネリィ。
台所で晩御飯の用意をしているしゅう。
そして、腹の減った俺。
ああ、早く晩飯ができないかな。
そう思いながら、この夜は更けていく。
…え、俺がどこに行っていたかって?
今日発売のゲームを、朝一で買いに行っていました。
これをしゅうに言ったら絶対「そんなことやってる暇があるなら、術の訓練しろ」って怒られるので言えません。
バレないように、しばらくは隠れてやろうと思う。
家に帰ると、誰も居なかった。
居間にも台所にも二階にも、同居人は居ない。
カレンダーを見てみるが、用事があると言っていた覚えもない。
俺はよく物事を忘れるので怒られるけれども、今日は確かに何も言っていなかった。
一瞬、嫌な予感が胸をよぎる。
けれども、テーブルの上の紅茶のカップやポットが、
物騒なことは無かったことを示してくれている。
「……どこ行ったんだろ、しゅう」
カップの中は空っぽで、クッキーも食べ尽くされていた。
しゅうは誰かをもてなしていたのだ。
誰かはわからないが、少なくとも危ないことではないだろう。
なんとなく、そんな気がする。
まあ、適当に待っていたら帰って来ると思う。きっと。
ただ
「クッキー、俺の分は無いのか…」
それだけが不服だ。
夕方、俺の腹がぐうぐうと音を鳴らしだした頃に、しゅうは帰って来た。
「ただいま」
「たっだいまー」
うちの同居人は、超年下の女の子を連れて帰りました。
「おかえり。なんだ、ネリィも一緒だったのか」
「というよりは、ネリィに付き合ってた」
つまり、うちに来て菓子と紅茶を飲み喰いしたのは、ネリィか。
因みに冷蔵庫の中も探してみたけど、俺のおやつは無くなっていた。
おやつを取り上げられたら、腹は当然鳴るわけで。
俺はいささか不機嫌ではあったが、ここは大人になってグッとこらえよう。
「どこ行ってたんだ?」
「お前こそどこ行ってた。朝から出かけてるなと思ったら。
お前も居たら、ネリィの相手が少しは楽に……」
なぜそこで止まる。
「……まあ、すぐに晩飯の用意するから」
なぜ話を変えるんだ、しゅう。
しゅうはエプロンを引っつかむと、スタスタと台所へ行ってしまった。
取り残された俺は、同じく取り残されたネリィにこそこそと耳打ちをしてみた。
「…ネリィ、どこ行ってたんだ?」
俺が尋ねると、ネリィは微笑んで
「ないしょ」
と言った。
なんだか二人に何かを内緒にされているようで、悔しい。
そう言う俺も、今朝から家を出ていた理由を秘密にしているから、おあいこか。
ちょっと残念に思いながらネリィに笑いかけると、
台所からしゅうがこちらを睨んでいた。
「ネリィ、何か余計なことは言ってないだろうな」
「今日あったことは内緒って、セイ君に言ってたんだよ。
しゅうちゃんが褒めてくれたことは内緒にしておくね」
「バ、ッ…ネリィ!!」
「へえ、しゅうがネリィを。珍しいこともあるもんだな」
しゅうが身近な人を褒めるだなんて、滅多にない。
台所に目をやると、しゅうが頬を赤くして慌てていた。珍しい。
「ま、もうバレちゃったわけだし。で、何について褒められたんだ?」
「あたしがあたしにしかできないことを、調べたこと」
サッパリ意味わからん。
「どういうことだ?わかり易いように説明してくれ」
「ほんの些細なことだったんだけどね。精霊もお化粧とかするのかなーって思ってたの。
でも、それをテムレクトさんにバカにされちゃった」
「テムレクトは頭意外と固いからな」
「ほんとそうだよね。でも、しゅうちゃんは『人間のお前だからできたんだ』って、褒めてくれた。テムレクトさんは『甘い』って怒ってたけどね」
えへへ、とネリィが笑う。
その顔は本当に嬉しそうだった。
…そうか。
しゅうは、ネリィを羨んだのだろう。
彼はどんな観点にも恵まれているようで、その実どの観点からも見放されている。
ネリィは精霊から生まれたとはいえ、半分は人間。
力を持っているが、育った環境的には人間と等しいと考えても良い。
例え差別をされていても、ネリィは“人間”で居られる。
“人間”として物事を捉え、純粋にそこから考えることができた。
けれども、しゅうはそれができない。
それをしゅうは羨み、精霊から生まれた人間…ネリィを褒めたのだ。
「で、調べた結果はどうだった?」
「うん、面白かったよ。精霊界の歴史も教えてもらっちゃった……あと、ね」
「うん?」
ネリィがちらりとしゅうを見た。
俺もつられてしゅうを見る。
視線に気付いたらしく、彼はまな板から顔をあげた。
「ね、しゅうちゃん」
言いながら、にやにやと笑っている。
こういう時は大抵、ネリィは良からぬことを考えているのだ。
と、しゅうもにやりと笑った。…何だ?
「ちょっと、面白いことがあってな」
「テム、ネリィに対してそうは言うけどな」
熱い紅茶を冷ましながら、俺は言う。
テムレクトは滅茶苦茶熱いはずの液体をぐいぐいと飲みほしていた。
こいつにとっては酒も紅茶も一緒だな。
「俺、さっき見たぞ。お前んちの台所」
「まあ、そうじゃろう。お茶を淹れさせたのはわしじゃ」
「にあった、美白化粧品」
「ぶぼあーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
樹の主が思いっきり紅茶をふき出した。きたねえ。
苦しそうに咳をすると、テムレクトは勢い良く立ち上がり、
「おんし!!!何を勝手に人の台所をみておるんじゃ!!!」
「いや、お茶を淹れさせたのはお前だろ!」
大鎌を顕現させると、それを構えた。
この大鎌、武器作りの達人であるテムレクトの自信作であり、精霊界一危険な武器でもある。
切った対象を時空の彼方に飛ばしてしまうというのだから恐ろしい。
「え、何、つまり…テムレクトさん」
「知らぬ!わしは知らぬぞ!」
「嘘だって言うなら台所のものを持って来るが」
「その前におんしの首を飛ばしてくれるわ!!!」
俺は仮にもテムレクトの上司なんだが。
「…テムレクトさんも、お肌のお手入れしてるのね?」
「ち、違う!それは…それはっ…」
こうもうろたえるテムレクトだなんて、滅多に見られない。
小さな子どもを目の前にしたら、こういう風にうろたえるらしいが。
「それはっ、そうじゃ…エフォールが勝手に置いてって…」
「嘘吐くならもっとマシな嘘吐け。うちの師匠は男だし、あんなもの俺は見た覚えもない。
正直に言えよ、自分で作ったりして、手入れしてるんだろ?」
「う、ううう」
テムレクトは既に涙目になっていた。
大鎌を持つ手は震えていて、とても俺の首を刎ねられそうにはない。
ちょっと悪いことしたかなと思っていると、ネリィがつつつとテムレクトに近寄って行った。
「何も恥ずかしいことじゃないよ、テムレクトさん。
テムレクトさんだって年なんだから、お肌を気にするのは当然だよ」
あ、ばか。
「うがああああああ!!!!で、で、で、出てけっ!!!おんしら皆、出け行けーーーーっっっっ!!!!!!」
「きゃーっ!」
「あーあ」
トドメを刺されたテムレクトが鎌を振り回し始めたので、
俺達はさっさとテムレクトの根城から逃げ出したのだった。
「……それはまあ、ご愁傷様だな」
「あたし、悪気があったわけじゃないんだけど」
テムレクトは精霊界の女性の中でも年長なので、兎に角年齢を気遣っているようである。
樹の主というので目立つのに、年長ともなると更に目立ってしまうのが嫌なのだと聞いたことがある。
それを16歳の少女に突かれたのだから、たまったものではなかっただろう。
ネリィは満足そうに、ニコニコと笑っている。
「今回の研究結果。精霊界では唯一、テムレクトさんがお肌の手入れをしているのよ」
「なるほど。貴重な話を聞いた」
テムレクトが涙目で鎌を振り回すという話が。
「しゅうちゃんにも褒められちゃったし、こうして実績も得られたし…。
また何か思いついたら、研究してみようっと!」
「そうか、頑張れよ」
つまりそれは、しゅうはまたネリィに引っ張り回されるということだ。
しゅうの方を見ると、しゅうは疲れたような顔をしていた。
次の研究について胸を膨らませるネリィ。
台所で晩御飯の用意をしているしゅう。
そして、腹の減った俺。
ああ、早く晩飯ができないかな。
そう思いながら、この夜は更けていく。
…え、俺がどこに行っていたかって?
今日発売のゲームを、朝一で買いに行っていました。
これをしゅうに言ったら絶対「そんなことやってる暇があるなら、術の訓練しろ」って怒られるので言えません。
バレないように、しばらくは隠れてやろうと思う。
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